たびびとしらず #08

島好き在さんの旅の記憶
第8回『沖縄とチケットと鈴木くん』
今年は台風が多い。
先日の15号は東から西に進むという珍しいルートを通った。
15号の一つ前の13号は沖縄に甚大な被害を残して去っていった。
知人の鈴木君(仮名)がその13号にまんまと翻弄された。
鈴木君が友達に沖縄に行こうと誘われたのは3月だった。仲間で集まって飲んでいた時に「今度このメンバーで沖縄に行こうぜ」という話になったらしい。鈴木君はまだ沖縄に行ったことがなかったので二つ返事でOKをした。青い空と青い海。テレビやネットで見る風景が鈴木君の脳内に広がる。しかも沖縄でゴルフをしようという話まで出てきた。青い海を見ながらコースを回る。青い空に向かってクラブをスイングする。それは何と魅惑的なシチュエーションか。鈴木君の口角は知らず知らずの内に上がっていた。
数日後友達から「8月8日~11日の日程はどうか」と連絡が来たので鈴木君はもちろん「OK」と返信をすると同時にフライトの検索をした。5か月も前だったのでお昼前に那覇に着くフライトが2万円というリーズナブルな価格で販売されていた。友達たちはそれぞれ出発空港が異なり那覇で待ち合わせとなったので、このフライトでどうかと打診をし、みんな似たような時間のフライトを見ていたのでお互い「じゃあそれで」とスムーズに話は進み、鈴木君は往路のチケットを購入した。これで沖縄に行くことは出来る。帰りのチケットはどう動くか大まかなスケジュールが決まったら買おう。もし最終日に水族館に行くことになったのに、お昼前のフライトを取ってしまったが為に断念せざるを得ないとかは悲しい。なんてったって初めての沖縄だ。満喫したいではないか。それでなくても1日はゴルフで潰れるし。
ホテルもレンタカーもゴルフ場も友達が抑えてくれたので、鈴木君はすっかり安心しきっていた。そしてゴールデンウィークを過ぎた頃に「あ、帰りの飛行機まだ買ってなかったな」と思い出したのだという。そこでグループLINEでみんなに聞いてみると鈴木君以外のみんなは大体19時発前後のフライトを既に抑えていた。なので鈴木君も足並みを揃えるべく似たような時間のフライトを検索した。
幸い似たような時間のフライトを見つけることが出来、値段を見るとLCCのその航空会社には一つのフライトに3つの料金設定がされていた。預け荷物の重さ制限・事前座席制限・変更及びキャンセル可否。もちろんグレードによって値段が異なる。鈴木君は迷った。彼は慎重な性格だったので変更/キャンセル可能な一番グレードの良い料金で購入しようと思ったが、行ったからには帰るのは当たり前だし、その差額を沖縄の楽しいこと(飲み代とかお土産代とか)に使えるのではないかとう考えも生じた。念のために行くメンバーの中で一番仲の良い友達に聞いたらやはり友達も一番シンプルなグレードのチケットを購入しているという。
「差額勿体なくね?要らねぇよ、事前座席指定とか。2時間ちょっとくらい中席でも我慢できるし」
と言われ、鈴木君も一人でのフライトだったので「確かに」と納得して一番安いチケットを購入した。
いよいよ8月になり、鈴木君は「オマエまだゴルフバッグ送ってねぇの?」と言われてあぁ、沖縄だしな。翌日に着くわけじゃないしな…と思い仕事が終わってからゴルフバッグを宅配便でゴルフ場に送った。
そしてあの台風13号。本州に大きな影響を与えるルートではなかったのでニュースのトップを飾ることはなかったが、大型台風だったため、沖縄に接近するにつれSNSで不穏な投稿が目立ち始めた。鈴木君も仕事の合間にちょくちょくSNSをチェックしながら「やべぇんじゃね?」と思い始めたという。オレは青い空と青い海を見ながらクラブをスイングできるのか?テレビで見るようなTHE沖縄の風景を見ることは出来るのか?
そして出発の前々日、航空会社から届いた「欠航の案内」というタイトルのメールで鈴木君の初沖縄上陸の夢はとうとう潰えた。

「飛行機欠航になりました」
彼の沖縄行きを心配していた私に鈴木君は淡々と言った。
「おぅ…。ま、まぁ残念だったけど、行ったものの帰りのフライトが欠航になるよりはマシだよ。往路の欠航で必要なのは諦めの勇気だけだけど、復路の欠航は代替便の確保と宿の確保を自分たちでしないといけないからね。それに往路が欠航だと復路の分も手数料なしでキャンセル効くから実質出費はゼロだし」
私は過去の経験からそう言って鈴木君を慰めた。ところが鈴木君の浮かない顔は晴れることなく
「行きと帰りで飛行機別々に取っちゃったんですよね。加えて数日前にゴルフバッグを1万円近くかけて送ったし」
と言う。過去に私も都合の良い時間のフライトを取る為に往復の航空会社が異なったチケットを取ったことは何度かあった。今回鈴木君の言葉を聞いて初めてそれが台風時に於いてリスキーなことだという事に気が付いた。そうか、今までは往路の台風に遭遇したことがなかっただけでラッキーだったのだ。
しかもゴルフをしない上に海外旅行ですらバックパック1つで行く私は事前に旅先に荷物を送ることもない。その行き場のない荷物が発生するという考えも思い浮かばなかった。
「帰りはいつの予定だったっけ?」
「11日っす」
進路予想図を見るともう沖縄は通過している(何なら熱帯低気圧に変わっている)。沖縄で足止めを食らっていた人達の混乱はまだ残っているかもしれないが、飛行機は通常運転に戻っているだろう。LCCならなおさらだ。
「同じ航空会社だし、事情を説明したら復路のキャンセルできますかね?」
「うーん…。どうだろう?確認しても良いかもだけど、今は電話はつながらないと思うよ」
「ですよねえ」
はぁ、と鈴木君は大きなため息をついた。
鈴木君以外の友達たちはみんな往復でチケットを買っていたため、予約番号が紐づけされているので帰りのフライトも同時にキャンセルできたという。そう、鈴木君に「キャンセル不可のグレードで良いよ」と言った友達も。
「あー、アイツの言葉を真に受けるんじゃなかった」
と鈴木君はぼやいた。
夏の沖縄旅行に台風のリスクはつきものだが、実際自分が行くときにピンポイントで台風が来るとはなかなか思わない。かくいう私も秋に行く石垣島のチケットはキャンセル不可のグレードで購入している。台風を危惧して最終日前日は空港のある石垣島に宿泊するように用心しているにも関わらず。
あぁ神様。お願いです。私が八重山に行くときは台風が来ないようにしてください。
西館 在 (にしだて ある)
旅とオールドミニクーパをこよなく愛するフーテン。気に入ったものを長く使い続けるのが好きで愛車は現在27年目。家で寛ぐことが好きなのに家にいるのはほぼ睡眠時間という矛盾を抱えて生きています。

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