たびびとしらず #01
- 西舘 在

- 2025年8月14日
- 読了時間: 4分
更新日:2025年11月24日
島好き在さんの旅の記憶
第一回「島は逃げない、私が帰れないだけ」
記念すべき第一回目。さて、何を書こうか――そんなことを考えているうちに、ふと過去に訪れた旅先が脳裏に浮かび、しばしトランス状態に。
「島好き」と紹介されたのだから、やはり最初のエッセイは島がふさわしいだろう。
実際、真っ先に思い浮かんだのも島だった。
その島とは、ベタだけれど沖縄。ベタだけど本島。
今から20年ほど前。ANAが「全国どこでも1万円」という破格のフライト企画を実施したことがあった。全路線片道1万円という、まさに“神企画”だった。
当時の勤務先はわりとゆるく、平日だった受付開始時刻に、電話を鬼のようにかけまくった。もちろん、そう簡単には繋がらない。何十回目かのチャレンジでようやく繋がったとき、電話口の方にぶつけたのは「伊丹を金曜出発、日曜戻りで空いている路線はありますか?」という、行き先無視のドンブリ質問。
そう、どこでもよかった。ただ、とにかく旅がしたかったのだ。
たしか予約したのは5月でフライトは7月。北海道方面はすでに満席だったが、運よく「金曜昼前に伊丹出発、日曜昼前に那覇戻り」という便を確保することができた。
7月、沖縄。
灼熱の太陽と突き抜けるような青空を期待してワクワクしていたものの、出発日直前に台風がフィリピン沖で発生。空港のカウンターでは「引き返す可能性があります」という注意喚起があり、祈るような気持ちで搭乗するしかなかった。実際、祈っていたのは私だけではなかったのだろう。飛行機は見事、無事に那覇へと着陸した。わんだほー!
ところが着いてみると、期待していた青空はどこにもなく、分厚い雲が空を覆っていた。耳、鼻、口、毛穴という毛穴に向けて湿度が流れ込んでくるような、身体ごと包み込むような蒸し暑さ。それは紛れもなく東南アジアの気候だった。
残念ながら予約していたグラスボートは台風のため運休。
けれど、美ら海水族館に首里城、国際通りなど幸いにも豪雨に見舞われることなく2日間を堪能できた。今思えば、あの異様な湿度は、きっと台風の目の中にいたからなのだろう。
2日目の夜。夕食を終え、ホテルへ戻ると、空の様子がなんだか怪しい。とうとう台風が本格的に接近してきたようだった。部屋で天気予報を見ていると、翌日の便が欠航になるとニュースで言っていて、目の前が真っ白に。どうすればいいのかも分からず、ベッドの上で丸くなりながら現実逃避していたものの、雨風が窓を叩くたびに眠りが浅くなった。
翌朝。チェックアウトよりも朝食よりも先に向かったのは空港だった。すでにロビーは旅行者であふれ返っていて、案内板には「全便欠航」の文字。地上係員も混乱の渦中にあり、宿泊の補償もせず、明日以降の見通しも立たないという。途方に暮れながらホテルへと戻り、延泊が可能か確認するも、当日の到着状況が不明なため、部屋の確保も不確定。
それでも借りていたレンタカーは運よく延長可能だったので、最低限の移動手段は確保。日中どう過ごしたかはもはや記憶が曖昧だけれど、夕方になってホテルから部屋が取れたと連絡があり、再び戻れた瞬間の安堵感は今でも覚えている。
晩ご飯を食べに外へ…と思ったら、外はバケツをひっくり返したような大雨。近くのコンビニへ出かけただけで、全身ずぶ濡れに。傘なんて、無力だった。
明日は飛行機が飛ぶのだろうか。私は乗れるのだろうか。そもそも、会社には沖縄に来るなんて伝えていなかった…。
さまざまな不安を抱えながら、その夜は眠りについた。
月曜の朝。7時前には空港へ向かうと、昨日以上の混雑ぶり。
台風は夜のうちに去ったものの、空はまだ雨模様。先頭の見えない長蛇の列に並び、順番待ちの番号を受け取ってレンタカーを返却。再び空港に戻ってあとは呼ばれるのを待つのみ。
9時を過ぎた頃、会社へ電話。
「急ですみませんが…今日休みます」
「どうしたの?」
「今、那覇にいて…」
「ナハ??」
「台風で昨日帰れなかったんです…」
「いつ帰ってくるの?」
「それは私が一番知りたいです」
月曜の出社が最大の懸念事項だっただけに、これをカミングアウトして肩の荷が下りた気がした。
あとはなるようになる。
羽田便を希望する旅行者が空港内の半数以上を占める中、私は関西方面行きの臨時便に賭けた。伊丹・関空・神戸と選択肢が多かったのも幸いし、午後の伊丹行きを確保。
午後3時過ぎ、無事帰阪。その足で会社へ直行。
「お帰りー!」
「よく帰ってこれたねぇ」
「意外と早かったじゃん」
そんな愛ある嫌味を受けつつ、お土産を配った(ナイショで行っていたので当初はお土産を買っておらず、待ちぼうけの那覇空港で急遽買う羽目に)。
あの頃、私はまだ旅のビギナーだった。でも間違いなく経験値を上げた旅だった。
数年後、石垣島で再び台風に遭遇し、足止めをくらったときも冷静に対応できたのは、まぎれもなく、沖縄本島でのこの経験があったから。
その話は、また次の機会に。
西舘 在 (にしだて ある)
旅とオールドミニクーパをこよなく愛するフーテン。気に入ったものを長く使い続けるのが好きで愛車は現在26年目。家で寛ぐことが好きなのに家にいるのはほぼ睡眠時間という矛盾を抱えて生きています。

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