ピラティスとピラティス以外と私 #03

更新日:2025年11月24日
第3回『黒いコートのサンタ』
11月に入り、街の空気がどこか甘くて冷たい“クリスマス前の匂い”になると、必ず思い出す出来事がある。
あれは大学生の頃。
クリスチャンではないけれどクリスマスの雰囲気が好きで、友達に手作りカードを渡したり、家族にプレゼントを買ったりしていた。
冬休みに入り、家族へのプレゼントを抱えて実家に帰る日。
少し寝坊してしまい、私は空港へ急いだ。
当時はスカイメイトという、「当日空席があれば割引で乗れる」学生にはありがたいサービスを使っていたため、とりあえずカウンターに並ぶしかなかった。
列がじわじわ進んで「あと少し!」と思ったそのとき、前にいた黒いコートの男性が、何気なくスタッフに言った。
「彼女を先に」
焦っているのが丸見えだったのだろう。
私は恐縮しながらも、ありがたく順番を譲っていただいた。
無事に手続きを終え、次は荷物検査へ。そこでまた長蛇の列。
「やばい、今度こそ間に合わないかも…」と半ば諦めかけていた時、グランドスタッフの方が声を上げた。
「〇〇便ご搭乗のお客様はいらっしゃいますか?」
私はすぐに手を挙げ、別レーンへ案内される。すると、そこには先ほどの男性の姿が。
「あ、同じ便だったんだ…!」
自分の焦りっぷりが恥ずかしくなると同時に、彼の優しさが沁みた。
そしてここから、その日の最大のトラブルが始まる。
荷物検査場で突然――
ピーーーッ。
聞いたことのない大きな音が鳴り響いた。
異常が検知されたのは、家族へのクリスマスプレゼントを入れた袋。
係の方に言われるまま、袋の中の物を一つずつ取り出していった。
ある箱を指差され、「こちらの中身は?」と聞かれる。
「ジッポライターとオイルです。」
タバコ好きの父のために選んだ、とっておきのプレゼント。
私が答えた瞬間、係の方が淡々と言い放つ。
「こちらは機内持ち込みも、お預けもできません。破棄されるか、置いていかれるかになります。」
……はい?
捨てる?
置いていく?
クリスマスプレゼントなのに?
私は一気にパニックに。
ここまでの私の焦りを見ていたグランドスタッフの方も、検査係の方も全員がちょっと気まずい空気になった。
どうしようもなく焦る私を見かねたように、またもやあの男性が声をかけてきた。
「あの、よろしければ…私は明日こちらに戻るので、受け取ってあなたに送りますよ。」
その場の全員が「……神…?」と思ったに違いない。
男性はラッピングを見てプレゼントだと気づいていたのだろう。
そして、私にとってどれほど大切なものかも。
私は深々と頭を下げ、お願いすることにした。
無事に飛行機へ乗り込み、機内で住所を書いた紙を準備する。
到着すると、男性は入口で待っていてくれた。
名刺を渡され、「明日送りますから、安心してください」と静かに言い残して去っていく黒いコートの背中は、もう映画のワンシーン。
名刺には「〇〇商事代表取締役」の文字。

帰宅して母に興奮気味に話しながら名刺を渡した。
「代表取締役って偉い人なんかなあ。」と私の言葉に呆れる母。
今思うと自分でも驚くほど世間知らず。
母はすぐにお礼の電話と心ばかりの品を送ったようだった。
(それくらい自分でしろと言ってやりたい。)
あんな素敵な人が社長してる会社、絶対いい会社やん。
2日後、荷物は無事に到着。
父の喜ぶ顔を見て、あの男性の優しさが胸に広がった。
私にとって、あの日の黒いコートの男性はサンタクロースだった。
今でも忘れられない、温かいクリスマスの思い出だ。
大人になった今、あの日の出来事の意味がより沁みる。
いつか違う形でも、あのときいただいた優しさを誰かに返していきたい。

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